借金返済|納税を立て替えた場合の求償権は民事再生の弁済禁止の制限を受けないか?

原告
主張
普天間

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

被告は,原告に対し,2721万5100円及びこれに対する平成12年10月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,原告が被告に代わって租税を支払ったことにより取得した求償権につき,民事再生法の弁済禁止の制限を受けないと主張して,原告が被告に対し,同求償権に基づく金員の支払いを求める事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者
原告は輸出入運送業務をする会社であり,被告は繊維製造販売を業とする会社である。
(2) 原告による被告の関税及び消費税の立替払
原告は,被告の委任により,平成6年12月以降,被告の貿易通関業務の代行を行っていた。
原告は,この際,被告の納付すべき関税及び消費税を被告名義で支払った。
原被告間には,この立替分については被告が原告に支払うという黙示の合意が存在した。
原告の支払分については,原告が被告に納付書を送付し,これを見た被告が原告の立替分を交付するという形で清算されていた。
(3) 被告についての民事再生手続
ア 被告は,平成12年9月25日,大阪地方裁判所に対し,民事再生手続開始の申立てをし,同裁判所は,同月27日午後4時,民事再生手続開始の決定をした(平成12年(再)第43号再生手続開始事件)。
イ 原告が被告に対して有する再生債権は次のとおりである。
期間 平成12年8月10日から同年9月25日まで
(ア) 関税1874万9500円を原告が被告名義で事実上支払ったことによって発生する求償権
(イ) 消費税846万5600円を原告が被告名義で事実上支払ったことによって発生する求償権
(ウ) 海上運賃277万57円を原告が被告名義で事実上支払ったことによって発生する求償権
(エ) 倉庫料5万9409円
(オ) 運送料99万1805円
ウ 原告は,被告に対し,平成12年9月30日付で,上記各債権につき,再生計画認可決定確定前の弁済許可の申立て(民事再生法85条2項)をするように求め,同意思表示は同年10月1日ころ被告に到達した。
ところが,被告は,上記申立てをするように原告から求められた旨を直ちに大阪地方裁判所に報告する義務(同条4項)を怠ったので,原告は同年10月17日付で,同裁判所に対して上申書を提出した。
しかしながら,同裁判所は,同条2項の弁済許可につき職権発動をしなかった。
エ そこで,原告は,本訴において,上記再生債権のうち,(ア)と(イ)の合計2721万5100円の求償権(以下「本件求償権」という)については,民事再生法の弁済禁止の制限を受けないと主張して,被告に対し,2721万5100円及びこれに対する上記再生計画認可決定確定前の弁済許可の申立てをするように求めた意思表示が到達した日の翌日である平成12年10月2日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払いを求める。
(4) 被告の支払うべき消費税についての扱い
なお,被告は,決算期日において,預り金として保管している消費税を,仮払い分と相殺,清算し,不足額を納付する。
原告が被告名義で納付した消費税846万5600円についても,被告が仮払いしたものとして,上記清算期において清算される。
したがって,この時点で,被告自身が負担したものとして扱われることになる。
2 争点
(1) 原告の主張
ア 優先債権の代位行使
民事再生法122条によると,優先債権については再生手続によらず,随時弁済することとされている。
そして,関税及び消費税等の租税債権については,国税徴収法8条により優先債権とされている。
原告は,これを被告に代わって立替払いしたのであるから,弁済による代位の結果,債権者の有する一切の権利を行うことができる(民法501条)。
したがって,国税としての固有の権利を除いて,これに反しない権利は代位行使が認められるべきである。
そして,国税の優先債権性につき移転を否定すべき理由はない。
原告と被告の輸入業務の委任契約には,被告において関税及び消費税を優先的に支払い,原告に迷惑をかけないという合意が存在したのであるから,本件求償権は単なる再生債権とは異なる。
原告の関税及び消費税の支払いは,被告の手足として行われたものであり,原告の独立の経済的利益のために行われたものではない。
この点で,一般的債権とは異なる。
関税,消費税は支払義務者が法により特定されている。
原告はいかなる意味でも支払義務者ではない。
以上の事実に鑑みると,原告が被告の関税及び消費税を立替払いしたことによって発生する本件求償権については優先債権性が認められるべきである。
イ 共益債権(民事再生法119条6号)の発生
被告は,預かり消費税について決算期に支払義務を負うが,その際,既に仮払いしている消費税については控除され,さらに,仮払分の方が多い場合には消費税の還付がなされる。
したがって,原告が立替払いした消費税については,この時点で被告に利益が発生し,不当利得が成立する。
この不当利得は,民事再生法119条6号の不当利得により再生手続開始後に再生債務者に対して生じた請求権となるので,被告は原告にこれを支払うべきである(民事再生法121条)。
被告は,原被告間に関税,消費税の支払委託契約があったと主張するが,否認する。
原告は,通関業務に伴う純粋の事務管理的サービスとしてこれを被告名義で支払ったものである。
ウ 原告の請求の実質的妥当性について
原告の請求が認められない場合,被告が最優先に支払うべき租税債務を全くの善意で支払った原告の損失の上に,被告が不当に利得するという不正義を招くことになる。
また,被告は,その決算において,実際には払っていない関税及び消費税を支払ったことにするという不当な処理をすることになる。
かかる不当な処理を是正するには,本来,被告が自己の負担において納税する必要があるが,国に対して納税することができない以上,原告に対してその立替分を支払い,納税書類である納付書を受け取る以外にないのである。
民事再生法は,納税義務の免除を認める法律ではない。
エ 結論
よって,原告は被告に対し,原告が被告のために支払った関税及び消費税の合計2721万5100円及びこれに対する平成12年10月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払いを求める。
(2) 被告の反論
ア 優先債権の主張に対して
原告は,関税,消費税の立替金請求権について優先権を有すると主張する。
しかしながら,関税,消費税の納付請求権が優先債権であるとしても,その立替金については単純な金銭債権というべきであって,民事再生法上,優先債権として扱うことはできない。
原告が租税債権の債権者である国に代位するわけではない。
イ 不当利得の主張に対して
原告は,消費税立替分について,民事再生開始決定後に不当利得が生ずるから共益債権である旨主張する。
しかしながら,原告と被告との間には,関税,消費税について支払委託契約があり,原告は被告に対し,これに基づく立替金請求権を有する以上,重ねて不当利得が生じる余地はない。
被告には,立替金返還義務を有するのであるから利得がないし,上記立替金返還義務は契約に基づくもので法律上の原因を有するというべきである。
また,原告は,被告の決算の時点で不当利得が発生すると主張するが,原告が被告のために消費税を支払った時点で直ちに求償権が発生するのであるから,かかる主張は妥当でない。
被告は消費税の納付時期に原告の立て替えた分を差し引いて納付することになるが,それは支払委託契約に基づいて原告が消費税分を納付し,それによって被告が立替金返還義務を負うことになるという一連の流れであり,被告が納付義務を免れるという時点だけを抜き出して,その時点で不当利得が成立するということはできない。

第3 争点に対する判断

1 優先債権の代位行使の可否
原告は,原告が被告の関税及び消費税を支払ったことにより,弁済による代位の結果,原告は債権者である国の有する一切の権利を行使できることになるのであるから,原告の被告に対する求償権についても優先債権性が認められるべきであると主張する。
しかしながら,租税債権に優先債権性が認められている(国税徴収法8条)趣旨は,租税が国又は地方公共団体の存立及び活動の財政的裏付けとなるものであり,公平かつ確実に徴収されなければならないからであると解されることからすると,租税債権に優先債権としての性質が認められるのは,あくまで,国と納税義務者の間の税金の徴収という特殊な関係においてのみ認められるものというべきである。
したがって,租税を第三者が支払ったからといって,弁 済による代位の結果,優先債権としての租税債権が弁済者に移転するという法的効果を認めることはできない。
原告はその他にもさまざまな主張をするが,いずれも,本件求償権の優先債 権性を認める理由にはなりえない。
2 共益債権(民事再生法119条6号)の成否
原告は,原告が立替払いした消費税については,被告の決算時に,被告が支払うべき預かり消費税から控除され,支払義務を免れるのであるから,この時点で不当利得が成立することを理由に,不当利得により再生手続開始後に再生債務者に対して生じた請求権(民事再生法119条6号)に該当すると主張する。
しかしながら,前記争いのない事実のとおり,平成6年12月以降,原告が被告の貿易通関業務を代行する際に被告の関税及び消費税を被告名義で立替払いし,後に被告が原告から送付された納付書をみて原告の立替分を弁済するという形態の取引が継続されてきたことに鑑みると,原告と被告との間には,関税及び消費税について明示又は少なくとも黙示の支払委託契約があり,同契約に基づいて,原告は被告に対し,本件租税立替払分についても求償権を取得することが認められる。
もっとも,本件においては,たまたま,民事再生手続の開始によって,同求償債務について弁済禁止の効力が発生したため,原告は被告に同求償権を行使することができない状態になったけれども,同求償権自体は存続する以上,弁済禁止の効力の発生により被告が利得したと認めることはできない。
3 結論
以上の次第で,原告の請求には理由がないのでこれを棄却する。

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